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認知症における黄昏症候群とは
夕方近くになると、それまで穏やかに過ごしていた人がそわそわし始め、うろうろと徘徊したり独り言を繰り返したりする場面に出くわすことがしばしばあると思います。
不安感や帰宅願望が強くなり、時には声を荒げたり、制止する介護者を振り切ろうと暴力的になることもあります。
このように夕方から夜間にかけてあらわれるせん妄や不穏を『黄昏症候群』といいます。
ほかにも『夕暮れ症候群』や『日没症候群』などと言われることもあるようです。
具体的には「そろそろ家に帰らせていただきますね」などと荷物をまとめ始めたり、自宅や施設の玄関を出て行こうと徘徊を始めたりします。
黄昏症候群の理解
夕方になると何となく気が急いたり、漠然ともの悲しさを感じりした経験はないでしょうか。
この黄昏症候群というのは認知症患者に限ったことではなく、夕方頃になると大泣きして何をしても泣き止まないなどと乳幼児にも見られるそうです。
結論から言うと黄昏症候群の発症メカニズムはよくわかっていません。
ですが、睡眠と覚醒のサイクルが関与しているのではないかと言われているそうです。通常であれば夕方から就寝1~2時間前というのは覚醒度が高まる時間帯ですが、認知症患者では加齢現象も加わって夕方以降の早い時間帯に眠気を強く感じることになってしまうそうです。
ただ眠気を感じるだけではなく、自分のいる場所や置かれた状況が理解できなくなり、強い不安や困惑を感じてしまい、この見当識障害からせん妄や不穏につながるということです。
さらに、認知症患者は現在のことは覚えていなくても、昔のことはよく覚えています。
認知症患者は生きているのは過去の時間、例えば結婚当初夕方になると買い物をして夕食の準備に取り掛かる、日暮れ前に洗濯物を取り込むなど「じっとしていられない」「よそ様の家にこんな時間まで上がり込んでいては申し訳ない、そろそろお暇しなければ」と落ち着かなくなるのです。
また周りの環境がこの症状を増長してしまうこともあります。
一般的には夕方は施設などでは勤務交代の時間帯、夕食の準備、日勤帯の後片付けなどと介護者も慌ただしく動き回る時間帯です。
気持ちも焦っていることもあるかもしれません。
在宅介護の場面においてもやはり、夕食の準備であったり、子どものお迎えなど忙しい時間帯です。
普段なら余裕をもって接することができていても、ついつい「早く話を切り上げたい」というような気持が伝わってしまうと、介護者の焦燥感が認知症患者にも伝播してしまうのです。
認知症患者の黄昏症候群への対応
そうは言っても毎日毎日同じことの繰り返し。
どうやって対応すればいいのか悩みどころだと思います。
いろいろな対応法がありますが、ご本人が好きなことに熱中しているときは症状が出現しにくいようですので、この時間にその人の好きなことができるように事前に準備しておくことも効果的です。
塗り絵や計算問題、漢字プリントなど単純だけれども黙々とひとりで取り組めるようなものを用意します。
手先が器用な方だと手芸や編み物、読み物が好きな方は新聞や雑誌でもいいかもしれません。
他には脳を活性化させるために、ラジオ体操など簡単なレクリエーションをしてみるのも良いと言われています。
忙しい時間帯にレクリエーションなんてできないというのであれば、テレビ鑑賞や音楽鑑賞でも視覚や聴覚を刺激することができます。
また、意外と見落としがちなのが照明の調節です。
外が暗くなると不安や恐怖を感じる人もいますし、そこから不穏につながることもあるので夕日が入らないようにカーテンで遮ったり、照明を十分に明るくすることが大切です。
人工照明は体内時計に及ぼす悪影響ばかり耳にしますが、認知症高齢患者にとっては反対に早すぎる眠気を調整できる効果が期待できます。
また、単純に明るい光はそれだけで脳の活性化に一役買ってくれます。
それでも、どんな工夫をしてもそわそわして落ち着かない人はいます。
そんな時、介護者はどんな声掛けをするのが良いのでしょうか。
例えば施設入所中の利用者がしきりに「子供が帰ってくるのでそろそろ家に帰る」と徘徊を始めます。その人に向かって「あなたの家はここですよ」とか「もう娘さんは結婚されて家にはいませんよ」とまっとうに諭しても相手はますます混乱するばかりです。
それよりも「もう暗くなってきたので、私が送っていきます。私の用事が終わるまでもう少し待ってもらえせんか?」「あとから娘さんもこちらに来ますので、一緒に待っていましょう」などと相手の状況を理解したうえで、提案したり、協力してもらえるようにお願いしたりする姿勢で声掛けをするとあっさり受け入れてもらえることもあります。
余裕があれば実際外出することで納得することもあります。
まとめ
昼間は穏やかだった人が、夕方になり落ち着きがなくなり何を言っても聞き入れてもらえずどんどん興奮状態でお手上げ状態。
介護現場では一度は経験したことがあると思います。
うんざりすることもあるかもしれません。
ですが、その人の頭の中で起こっていることを理解し、先手を打って症状を回避したり、声掛けを工夫することで認知症患者も介護者も穏やかな時間を過ごすことができるでしょう。
一概に認知症患者の黄昏症候群といっても、個々の人生の背景によっても症状は違ってきます。
人それぞれ効果的な対処法も異なってきます。
色々試してみて、その人に合った対処法が見つかれば嬉しいですね。